知る人ぞ知る英単語リスト、JACET8000。

5000以上英単語を一覧で確認できる英単語集は多くないため、英単語の暗記漏れ確認などを行いたい方はご存じかもしれません。しかし、あまりJACET8000の情報が表にでてきていないので詳しい事を知らない方は多いかと思います。そんな方のために、調べた内容をご紹介します。

JACET8000とは?

日本人大学生向けの基本英単語リスト

JACET8000とは、大学英語教育学会(The Japan Association of College English Teachers、JACET)が日本人大学生が学ぶべきとして選定した8000語の英単語リストです。2003年に出版されました。また、8000語の他に曜日や国名などの250語がplus250という別表にまとめられています。

JACET8000の英単語は主にBNC (British National Corpus)のデータが元になっていますが、日本の英語教科書やGraded Readers (学習者向けの語彙制限本) などの語彙も考慮されており、日本の英語学習者向けに1~8000までの順位が調整されている点が大きな特徴です。英単語の語彙リスト研究や英文のカバー率比較などの研究では、アルクのSVL 12000とともに利用されるケースが多いように思います。

British National Corpus (BNC)

BNCとは1990年前後に作られ大規模なイギリス英語コーパス (小説、雑誌、論文、ラジオなどで使われた言葉の用例集) です。文章や口語表現などの英文を集め、あわせて1億語の英単語で構成されています (書き言葉: 約90% + 話し言葉: 約10%)。

SVL 12000

SVL 12000とはアルクが選定した12000語の英単語リストで、究極の英単語とも呼ばれています。JACET8000と同様にBNCのデータを用いて英単語が選定されていますが、ロングマン定義語彙やJACET基本語などの語彙リストも参考にしたようです。中学生から社会人までの英語学習者が使える基準として用いられ、アルクの複数の英語教材で活用されているため、知っている方も多いのではないでしょうか。以下レビュー記事も参照ください。

8000語は8つのレベルに分類されている

JACET8000は1000語ずつレベル分けされており、Level 1 ~ Level 8と区分けされています。また、このレベルはロングマン英和辞書にも参考情報として掲載されています。例えば辞書で fortune を調べると、[J3] の文字が表示されます。これは、JACET8000のLevel 3 (2001~3000語レベル) の英単語であることを示しています。詳細は以下の記事が参考になるかと思います。

JACET8000のバージョン

JACET4000

JACET8000はJACET4000の改訂版です。もともとは4000語の語彙リストとしてJACET4000が1981年に出版され、第2版 (1983年)、第3版 (1993年) と改訂されています。この4000語はBNCではなく「Kucera and Francis」や 「Carroll et al.」といった別の語彙リストが参考として使われており、さらに選定委員の議論に基づいて単語が選定された模様です。選定基準については以下ページにまとまっていましたので、詳細はそちらを参照ください。

JACET8000

JACET4000の第4版として、JACET8000が2003年に出版されました。JACET4000の改訂版となっていますが、単語の選定基準については大幅に変更されているため、別物と考えて良いかと思います。

具体的には、

  1. TOEICやセンター試験などの英語試験、中学・高校の英語教科書、新聞・映画・CNNなどの口語や時事英語などから独自のサブコーパスを作成し、頻出語リストを作成
  2. BNCの頻出英単語リストとサブコーパスの頻出語リストを比較し、日本人大学生向けの800の0英単語を選出
  3. 高校英語教科書コーパスを参考に、8000語の順位を調整
  4. 選外となった英単語のうち、不規則な活用形、月名、曜日、数詞、国名など教育で重要な250語を別表 (plus250) にまとめる

上記のような選定があった模様です。詳細は以下を参照ください。

新JACET8000

JACET8000の後継として、新JACET8000が2016年に出版されました。JACET8000はBNC (英国英語コーパス) が利用されていましたが、新JACET8000ではCOCA (米国英語コーパス) のデータも参考にされています。詳細は以下を参照ください。

掲載語のレベル分け

語数JACET8000SVL 12000
レベル目安レベル目安
1~1000Level 1中学校英語教科書SVL 1英語の基礎
1001~2000Level 2高校初級SVL 2日常生活
2001~3000Level 3高等学校英語教科書SVL 3会話がはずむ
3001~4000Level 4大学受験SVL 4読解の基礎
4001~5000Level 5難関大学受験、大学一般教養SVL 5大学受験
5001~6000Level 6英語専門外の大学生やビジネスマンSVL 6検定試験
6001~7000Level 7英語専門の大学生SVL 7表現力を豊かに
7001~8000Level 8日本人英語学習者の最終目標SVL 8読解の自信を深める
8001~9000SVL 9TOEIC高得点
9001~10000SVL 10英文雑誌
10001~11000SVL 11視野を広げる
11001~12000SVL 12世界をさらに広げる
plus250の語彙レベルはLevel1相当

JACET8000は1000語単位でレベル分けがされており、おおよその目安があります。なお、8000語が英語学習者の最終目標と記載されていますが、実際には語彙数8000でのTOEICハイスコア取得・英検1級合格は難しいかと思います。

JACET8000の入手方法

英単語リスト自体は無料

新旧JACET8000の英単語リスト自体は、神戸大学の研究室のHPで無料で公開されています。翻訳や例文が欲しい場合は、Amazonなどで販売されている書籍を購入する必要があります。

種類概要
神戸大学石川慎一郎研究室英単語リストの公開サイト
JACET8000 英単語翻訳や例文も掲載されている書籍
JACET8000 英単語 Checkmate2001~5000語レベルに特化した単語集

JACET8000に関するツールや論文

英文をJACET8000で分類するツール

英文を語彙レベル別に分類し、英単語一覧を出力するプログラム (Word Level Checker) が無料で公開されています。語彙レベルの基準としてJACET8000、SVL 12000、WLC (ver.02) の3パターンを選択できます。利用方法は、Word Level Checkerトップページの上の方にある[WLC 解説]のリンク先に記載されています。

JACET8000を利用した論文

JACET8000を利用した語彙や英文カバー率の研究などは多く行われており、CiNiiなどで論文を検索することができます。中にはJACET8000とSVL 12000を比較した論文もあります。読んだ中で面白いと感じたモノをいくつかリストアップしておきますね。

和訳を付けてボキャビルをするには?

市販の英辞郎とExcelで和訳を紐づける

アルクが提供している英辞郎 on the WEBの内容はCD/DVDで市販されています。この市販の英辞郎とExcelがあれば、任意の英単語一覧に和訳を付けることができます。詳細は以下を参照ください。

ボキャビルはAnkiで

Ankiとは世界中の語学学習者に愛用されている暗記のためのツールです。紙の単語帳やフラッシュカードをツール化したもので、復習期間を適切に管理してくれるため覚えづらい単語のみ頻繁に復習することができます。PC、スマホ、タブレットで使えます。私もAnkiで数百時間ほどボキャビルしています。

任意の英単語一覧に英辞郎の和訳を付けた一覧をAnkiに取り込めば、効率的にボキャビルすることができますよ! Ankiの詳細は以下を参照ください。

語彙の定着には多読を

洋書・マンガ・ラノベ・ドラマ・アニメを楽しむ!

ボキャビルを行うなら、洋書多読とあわせて行うことをオススメします。ボキャビルで覚えた単語を本の中で見かけるとボキャビルのモチベ―ションが高まります!

おすすめについては「定番の洋書75選!」「定番の絵本30選!」にまとめたので参照してください! その他にも英語のマンガ・ライトノベル・ノベルゲームなどもまとめています (英語作品一覧 )。

JACET8000の語彙レベル比較 (SVL 12000)

概要

本サイトでは様々な英文の語彙レベルを26000語レベルで分類して評価しています。26000語はアルクのSVL 12000 (1~12000語レベル) と極限の英単語・終極の英単語 (12001~26000語レベル) を基準としています。JACET8000に掲載されている英単語もこの26000語の語彙レベルで分類し、比較を行います。

基準となる英単語リスト語彙レベルレビュー記事
SVL 120001~12000レビュー
極限の英単語 Vol.1~412001~24000レビュー
終極の英単語24001~26000
英単語の分類は単語の形が完全に一致したか否かで判断します。例えば beat、beats、beatingは別の単語として扱います。ただし、大文字・小文字の差は判断しません。Beatとbeatは同じ単語として扱います。

解析の対象にする単語

前述しましたが、神戸大学石川慎一郎研究室のHPにてJACET8000の英単語リストが公開されているので、そこに掲載されている英単語を利用します。なお、upwordはLevel 4 (副詞) とLevel 7 (形容詞)、forwardはLevel 1 (形容詞) とLevel5 (副詞) に掲載されており重複しているので、実際には7998語が解析対象です。

また、plus250も対象にする場合がありますが、plus250語に含まれる3語「Scotch (Scottish)」、「would/had (‘dを復元した単語)」、「New York」これらはそれぞれ分解し、総語数は253語としてココでは考えます。さらに、plus250にはthoughtなどの活用形が含まれていますが、これらはJACET8000の単語と形が重複するもの存在します。最終的には重複を除外した230語を解析の対象としています。

種類掲載語数重複除外時
JACET800080007998
plus250253230
日本人大学生用英語語彙リスト 旧JACET8000(2003年版)
大学英語教育学会(JACET)基本語改訂委員会 (C)2003
データ管理 神戸大学石川慎一郎研究室

26000語レベルで分類

語彙レベルJACET8000 (7998語)
1~8000語レベル6468語
8001~12000語レベル1032語
12001~26000語レベル252語
26000語範囲外246語

JACET8000の7998語を英単語を26000語レベル (SVL 12000+極限の英単語+終極の英単語) で分類した結果です。JACET8000とSVL 12000はどちらもBNC (英国英語コーパス) を基準にしていますが、JACET8000とSVL 1~8の8000語で重複している単語数は6468語で、さらにSVL 12000と重複している単語数は7500語と、掲載語の選定には差が出ています。SVL基準で10000語レベル以上の難解な単語もJACET8000には一定数存在していることが分かりますね。

なお、インターネット上ではSVL 12000範囲外のJACET8000の単語は502語という情報がありますが、2018年3月時点でWeb公開されているJACET8000の英単語リストで確認した限りでは498語が正しい結果です。502語に挙げられている4単語 (congratulation、renaissance、allied、acknowledgement) はSVL 12000に掲載されています。

語彙レベルの相関

JACET8000の各レベルおよびplus250の単語 (230語) の分布が分かるようにレベル別に色分けを行いました。JACET8000ではSVL1の英単語は920単語までしかカバーできていませんでしたが、plus250残りの部分をカバーしていたようです。

少し見方を変え、SVL 12000の英単語をJACET8000の各レベルで分類したものが以下グラフです。

JACET8000とSVL 12000のレベル分けの違いについて

JACET8000は日本の教育現場における英単語の頻度順をかなり意識しているように感じます。例えば、JACET8000のLevel8にはSVL 1 (1000語レベル) の単語が6種類 (basketball、candy、kind、of、sleepy、soda) 含まれていました。これら単語が簡単か難しいと聞かれれば、簡単であると判断できるでしょう。ただし、candyやsodaなどが学校英語やTOEIC、英検の英文で頻出するかと言われると違う気はします。つまり、日本人の感覚での簡単/難しいということではなく、頻出するか否かに重点を置いているのではないでしょうか。

SVL 12000範囲外の単語の特徴

範囲外の単語がJACET8000に掲載されている理由

SVL 12000範囲外の単語は498語存在しましたが、そのうち極限の英単語 (12001~24000語レベル) と終極の英単語 (24001~26000語レベル) の掲載語と重複した単語は約半数の252語という結果が出ました。つまり、26000語レベルでもカバーできなかった英単語が246語もあるという事ですが、まず理由として考えられるのは以下2点です。

  • 元となったコーパスの影響

    12001~26000語レベルの英単語リスト「極限の英単語」と「終極の英単語」の掲載語はCOCAという米国英語コーパスの頻度順に基づいています。一方BNCは英国英語コーパスであり、またBNCとCOCAでは集めた英文のジャンルや年代も異なっているため、この2つのコーパスの頻出語は差異があります。実際、BNCとCOCAでは英単語の頻出順に差があるという報告もあるため、その辺りが影響している可能性が考えられます。

  • JACET8000の単語選出に使用したサブコーパスの影響

    JACET8000の単語選出にはTOEICやセンター試験中学・高校の英語教科書など日本で使われる英語の影響があります。これら英単語がBNCやCOCAでの頻出語でないため、SVL 12000や極限の英単語、終極の英単語に掲載されていない可能性があります。

範囲外の単語はドコに掲載されているのか

どちらの影響が強いのか傾向を掴むために、範囲外の単語が次の2種類の英単語リストに存在するか否かを確認してみました。

BNC 頻出語リスト (20000語)

BNCに頻出する英単語を20000語を集めたリストがあるので、SVL 12000範囲外のJACET8000の英単語がこの20000語の中に掲載されているかを確認します。もしこの20000語にSVL 12000範囲外の単語が多く存在するのであれば、JACET8000はBNCでは頻出&COCAでは低頻出である単語が多い傾向と言えそうです。なお、このBNC頻出語リストの20000語はVocab Profilersにて公開しているBNC 1-20Kのheadwordリストを利用しています。

CEFR-J Wordlist Ver. 1.3 (7814語)

CEFR (Common European Framework of Reference、ヨーロッパ言語共通参照枠) とは、語学力を測る国際な基準です。もともとはヨーロッパで使われていましたが、現在は多くの国で使われる指標となっています。A1、A2、B1、B2、C1、C6の6つのレベルが使われており、英検やTOEICの難易度の指標に使われることもあります。

そして、CEFRを日本の小学校~大学までの英語教育における共通の指標にすべく、日本の外国語教育に照らし合わせて整理したものがCEFR-Jです。さらにCEFR-Jでは、A1 (小学校~中学2年) から B2 (大学受験・大学教養) レベルに当てはまる英単語を選出・公開しています。2018年3月現在ではVer. 1.3として7814語の英単語が公開されているので、SVL 12000範囲外のJACET8000の英単語がこのCEFR-Jの英単語に当てはまるか確認します。もしCEFR-J Wordlistに多く掲載されているのであれば、BNCやCOCAでは低頻出ながら日本の学校英語で頻出する英単語をJACET8000ではカバーしていると言えそうです。

『CEFR-J Wordlist Version 1.3』 東京外国語大学投野由紀夫研究室.
(http://www.cefr-j.org/download.htmlより2018年3月ダウンロード)

結果

種類語数
BNC 頻出語リストCEFR-J Wordlist
掲載語数201927814
SVL 12000 範囲外の語数11456782
JACE8000SVL 12000範囲外の
498語の掲載語数
140111
26000語レベルの範囲外の
246語の掲載語数
1773

まず、BNC頻出語リストとCEFR-J Wordlistの掲載語のうち、SVL 12000と重複していない語数を調べたところ、それぞれ11456語、782語でした。その中で、JACET8000にのみ掲載されている単語がどれほど含まれているかを確認した結果が上記表です。

SVL 12000範囲外のJACET8000の掲載語498語のうち、BNC頻出リストには140語、CEFR-J Wordlistには111語が掲載されていました。ここで注目するのはそれぞれの掲載語数です。BNCではSVL 12000範囲外の語が11456語もありますが、498語のうち140語しかカバーできていませんでした。一方CEFR-J WordlistではSVL 12000範囲外の単語は782語でしたが、498語のうちの111語もカバーしています。というわけで、SVL 12000に掲載されていないがJACET8000に掲載されている単語は、BNCではなく日本の学校英語で学ぶ単語が多いと考えられます。

範囲外の単語例

参考までに、SVL 12000範囲外の498語のうち、ABC順で10単語を以下に掲載しておきます。

a.m., abruptly, accountancy, additionally, adequately, affordable, alga, amazingly, angrily, annually

JACET8000の語彙レベル比較 (NGSL、CEFR-J)

概要

① NGSLと語彙レベルを比較

無料で公開されている英単語リストに、一般英文の9割の英単語をカバーするといわれるNGSL (New General Service List、新基本英単語リスト) があります。2013年に大学の教授らが公開したもので、その他にNAWL (学術向け)、TSL (TOEIC向け)、BSL (ビジネス英語向け) の英単語リストもあります。ここではNGSL、NAWL、TSL、BSLの英単語とJACET8000がどれほど重複するか確認します。

種類対象語数
NGSL一般的英文向け2801 (Ver. 1.01)
TSLTOEIC英文向け1259 (ver.1.1)
NAWL学術的な基礎英文向け963 (Ver. 1.0)
BSLビジネス基礎英文向け1754 (Ver. 1.01)

② CEFR-J Wordlistと語彙レベルを比較

前述しましたが、CEFR-J Wordlistは日本の小学校~大学レベルの英単語が掲載されています。JACET8000も日本の大学生向け英単語として選出されているので、どれほど重複しているかを確認します。

レベル目安語数
A1小学校~中学2年程度1165
A2中学3年~高校1/2年程度1416
B1高校3年~大学受験レベル2451
B2大学受験~大学教養レベル2782

JACET8000とNGSLの重複語数

種類対象語数
JACET8000と重複する語数範囲外
NGSL一般的英文向け278615
TSLTOEIC英文向け959298
NAWL学術的な基礎英文向け602126
BSLビジネス基礎英文向け616217
4963656

NGSL & TSL、NGSL & NAWL、NGSL & BSLの組み合わせでは英単語の重複はありませんが、TSL & NAWL & BSL間では英単語の重複が存在します。今回はNGSL→TSL→NAWL→BSLの順で組み合わせて英単語の重複を除外しました。重複除外時の語数は5619語で、そのうちJACET8000に含まれる英単語は4963語という結果が出ました。

この4種類の英単語リストはCambridge English Corpus (CES) というケンブリッジのコーパスが基準となっています。なお、ケンブリッジの名がついていますが英国&米国英語のコーパスなので、BNCとは性質が異なっています。また、日本での英語教育環境が考慮されているわけでもないため、656語はJACET8000の範囲外となるようですね。

JACET8000とCEFR-Jの重複語数

レベル目安語数
JACET8000と重複する語数範囲外
A1小学校~中学2年程度96291
A2中学3年~高校1/2年程度1094122
B1高校3年~大学受験レベル1759323
B2大学受験~大学教養レベル1539840
53541376

上記がCEFR-J Wordlistの単語をJACET8000の語彙レベル別に分類した結果です。CEFR-JのA1~B2までは小学校・中学校・高校・大学と区切りよくわかれているわけではないためか、JACET8000の語彙レベルで分類すると複数レベルに分散するようですね。

なお、CEFR-J WordlistにはT-shirtなどハイフンでつながれた単語、good morningなど2語を組み合わせた語句、同一単語が品詞別で掲載、など同一単語が複数含まれています。ここでは単語単体で評価を行っているため、重複した単語は除外してカウントしています。



英文カバー率比較

概要

カバー率計測対象

SVL12000とJACET8000の掲載語はどれほど英文をカバーするのかを確認してみます。
具体的な題材ですが、馴染みがありそうな以下を利用します。

種類目安語彙数題材
洋書5000以上ハリーポッター1巻 (米国版)
英語試験9000~10000TOEIC L&R
8000~9000英検準1級
1250~2100英検3級

英単語解析方法

それぞれの題材で使われている英単語が、それぞれ何千語レベルの語彙なのか確認していきます。英単語がSVL12000/JACET8000の英単語に一致するか否かは、まず英文中で使われてた語形で判定し、使われていなかった場合は原形に戻して再度判定しています。

例えば、beat, beats, beatingの3単語があった場合、

英単語
リスト
解析対象の単語
beatbeatsbeating
SVL12000SVL 2の単語存在しないので、beat として判定
→SVL2の単語
SVL 5の単語
JACET8000Level 1の単語存在しないので、beat として判定
→Level 1の単語
存在しないので、beat として判定
→Level 1の単語

上記のように判定します。一般的な語彙解析の研究では常に原形に戻して語彙数を計測していることが多いですが、英単語リストの掲載語の特徴を反映させるためにこのような手順を踏んでいます。そのため、同じ英文を対象に解析しても英単語リストの掲載語の種類によって解析結果の語数が異なる場合があります。ご留意ください。

また英単語リスト範囲外の単語のうち、人名、地名、商品名、造語などは範囲外の単語のカウント対象から除外しています。手順については以下記事の内容と同等です。

ハリーポッター1巻 (米国版) の英文カバー率

総語数

ハリーポッター1巻 (米国版) で使われている全英単語を分類した結果です。グラフにはSVL12000とJACET8000それぞれの語彙レベルに該当した英単語数と語彙レベル別の割合を掲載しています。なお、グラフ上の値はJACET8000での計測結果です。また、割合 (縦軸右) の値は差が分かりやすくなるように70%~100%のスケールで表しています。

1000語レベルではSVL12000もJACET8000も差は殆どありませんでしたが、2000語レベル以上では多少SVL12000の方がハリーポッターで使われる英単語が多い結果が出ました。一般的に英文を楽しむには総語数の95%を知っている必要があると言われており、SVLであればSVL 1~5の5000語を覚えていれば達成できますが、JACET8000ではLevel 6までの約6000語が必要となるので、洋書に関してはSVL12000で単語を覚えた方が効率が良いと言えそうですね。

英単語の種類

英単語の重複を除外し、英単語の種類で計測した結果が上記の通りです。SVL12000やJACET8000では約5000~6000語で総語数の95%がカバーできていましたが、5000~6000の語彙では登場する英単語の約70%までしかカバーできていないことが分かります。ある程度は文脈から内容が推測できますし、辞書を引きながら読書をしても良いわけですが、よりスムーズに洋書を読み進めたいのであれば語彙はあればあった方が良いことが分かりますね。

ハリーポッター1巻のもう少し詳しい語彙レベル解析結果は後日記事にする予定ですが、とりあえず26000語レベルで解析した結果は「英文の語彙レベル解析手順について」の記事内に掲載してありますので、気になる方はご確認ください。

TOEIC L&Rの英文カバー率

英単語の種類

TOEIC L&Rで使われる英単語を語彙レベルで分類した結果です。TOEICなどの英語試験は正確に単語の意味を把握していないと正解に結びつかないことが多いため、総語数ではなく英単語の種類を語彙レベルで分類した結果のみ掲載します。なお、TOEIC本試験の問題は公開されていないため、TOEICの公式問題集 (2017年2月発売の公式 TOEIC Listening & Reading 問題集 2) 第1回目の模試の英文を利用しています。

TOEICではJACET8000のLevel 2(2000語レベル) まではSVLよりも単語の登場数が多い結果となりました。JACET8000は日本の英語教科書や試験なども考慮して作られているからか、基本単語の部分ではSVL12000よりもTOEIC L&Rへの親和性が高いのかもしれませんね。SVL12000で解析した結果の詳細は以下を参照ください。

英検準1級の英文カバー率

英単語の種類

英検準1級試験 (2017年6月実施) で使われた英単語を語彙レベルで分類した結果です。TOEIC同様、こちらも基本的となる1000語レベルではJACET8000の方が圧倒的に英検準1級の英単語をカバーしていることが分かりました。しかし、6000語レベルを超えてくるとSVL12000の方がカバー率が高くなってきます。英検準1級は8000~9000語レベルの語彙が必要なので、最終的にはSVL12000でボキャビルした方が効率はよさそうですね。SVL12000で解析した結果の詳細は以下を参照ください。

英検3級の英文カバー率

英単語の種類

英検3級試験 (2017年6月実施) で使われた英単語を語彙レベルで分類した結果です。英検3級は中学卒業レベルと言われている試験で、語彙は1250~2100程度が目安です。

TOEICや英検準1級での結果から、英検3級ではJACET8000の方がカバー率が高くなると予想していましたが、実際はSVL12000のよりも大幅にカバー率が低くなる結果となりました。これには理由があり、JACET8000は曜日や数値などの1000語レベルの基本単語をplus250という別表にまとめていることが影響しています。今回の解析ではplus250は考慮しておらず、また英検3級試験の英文量の少ないため、JACET8000範囲外の単語割合が高くなっています。もしplus250を考慮した場合、JACET8000の範囲外の英単語の種類は 33 → 12 まで減り、SVL12000とのカバー率の差は少なくなります。ただし、いずれにせよSVL12000の方が英単語のカバー率は高いという結果に変わりはありませんでした。

英検3級の語彙レベルに関する内容は以下記事も参照ください。

まとめ

JACET8000 vs. SVL12000を考える

単純に優劣はつけられない

JACET8000をSVL12000、NGSL、CEFR-J Wordlistと比べてきましたが、JACET8000の掲載語や語彙レベル (掲載順位) は他の英単語リストと異なる部分があることが分かりました。しかしそれは当たり前のことではあります。

英単語リスト・頻出語リストとは目的を持って作られるものです。JACET8000は日本人大学生を対象に、SVL12000は日本人の英語学習者 (中学生~社会人) を対象に、NGSLは一般英文の頻出語を集めることが目的と、選定基準が異なるので掲載される英単語や順位に差がでることは当然と言えます。また、CEFR-J Wordlistは日本の学校英語教育向けに選定されているのでJACET8000と似た性質を持ちますが、コーパスではなくアジア隣国地域の小中高の英語教科書が基準となっているため、単純比較はできません。

したがって、本記事の内容だけではどの英単語リストが一番優れているという結論はでません。目的に応じて使い分ける必要があります。TOEICでスコアを伸ばすには、英検ではなくTOEIC頻出語を集めた専用の単語集を利用した方が良いのと同じことです。というわけで、目的を決めて考えてみます。

TOEICハイスコア、英検準1級以上を目指す

英語学習者が10000語以上 (TOEIC ハイスコア、英検1級) のレベル まで語彙を増やすことを目的とするのであれば、12000語までカバーできているSVL 12000の方がオススメです。もし英検やTOEICの専用の対策をしたいのであれば、パス単などの市販の英単語集でも良いでしょう。あえてJACET8000でボキャビル必要性はありません。

学校英語を基準に、自分の学習進度に応じて暗記漏れの単語を探す

JACET8000の英単語リスト自体は無料公開されているので、8000語レベルまでであれば自分の学習進度に合わせて暗記漏れがある英単語を探すのにJACET8000を利用するのは良いかと思います。高校受験を控えているのであればLevel 1の単語を、大学受験を控えているのであればLevel 1~5の単語を復習するといった用途に使うと良いのではないでしょうか。ただ、その用途の場合は2016年に公開された新JACET8000をオススメします。新JACETについては詳細は以下記事を参照ください。