1980 年代のバブル期の東京を舞台にし、日本人の女の子と中国人の男の子の 1 年間を描いた日中合作ノベルゲーム「Christmas Tina – 泡沫冬景 -」。

本作のライターが以前プレイして面白かった無料ノベルゲーム「Narcissu 1st & 2nd」のライターと同一人物だと知り、また Steam 版の評価も高かったのでプレイしてみました!

英語版 Christmas Tina – 泡沫冬景

概要

バブル時代の片隅で繰り広げられる、古びた駅舎での1年間

英語タイトルChristmas Tina
ジャンルビジュアルノベル
私のプレイ時間約10時間 (本編: 約9時間30分、Chapter 30.5 + サイドストーリー: 約30分)
機種PC (Steam)
日本人の女の子と中国人の男の子の言語の壁

1987 年。日本の田舎に住む高校 1 年生の Kanna は妹の手術費用のためにお金が必要で、1 人地元を離れ上京し「古びた駅舎に 1 年間住むだけ」という地上げのバイトを見つける。一方、中国で大学受験に失敗した Jing もお金を稼ぐために来日し、知人から Kanna と同じバイトを紹介される。定員 1 名のバイトだが、Kanna と Jing はお互い譲らず、バイト代を折半し 2 人で駅舎に住むことに決める。しかし、日本人と中国人、言葉と文化の壁があり意思の疎通が図れぬ 2 人。果たして彼女らはどのような交流をして、どのような結末を迎えるのだろうか――。

英語でプレイするには

Steam 版は多言語対応しているので英語字幕でプレイ可能。Steam ランチャーを起動し、ゲームのプロパティから言語設定ができる。音声もあるが言語の変更はできない。なお、本作には Switch、iOS、Android 版があるが、そちらは英語字幕に対応していない模様 (2021年11月時点)。

ゲームの特徴

ビジュアル・BGM のクオリティが高い

演出も優れている

本作は選択肢が無いビジュアルノベルで、基本的には物語を読み進めていくだけである。しかし、通常のビジュアルノベルにある立ち絵+会話ウィンドウというスタイルだけでなく、立ち絵やテキストの表示方法などの演出も凝っており、あまり飽きることが無い。全体的に淡々とした雰囲気ではあるが、文章と BGM の質が良く雰囲気にあっているため、全体的に質が高い作品。

5 人の群像劇

本編は全30章

物語はプロローグ + 本編全 30 章 + エピローグという構成。各章は 15 ~ 20 分程度の長さで、少しずつ読み進めやすい。さらにクリアすると Chapter 30.5 という補完的な章と Side Story も読むことができる。

ちなみに肝心の物語の内容は Kanna と Jing の恋愛物語ではなく、この 2 人を含む以下5人の群像劇とも言うべき内容になっている。各人の心情や過去についてもキチンと掘り下げられているので、感情移入できる場面も多い。

櫻井 栞奈 (Kanna)15才。仕事を探し上京する
櫻井 絵美 (Emi)7才。持病があり、学校には通っていない
佐倉 詩織 (Sakura)22才。Kanna にバイトを斡旋する
景 萧然 (Jing)19才。中国から仕事を探しに来日
江小墨 (Jiang)37才。Jing にバイトを斡旋する

英語の題材として

シンプルで読みやすい英文

全体的に難しい表現は少なく、文構造もシンプル。日本語音声もあるのでノベルゲームとしてはかなり読みやすい部類。中国人である Jing と Jiang のボイスは中国語だが、それほど多くはないし難しい内容でもないので英語字幕だけでもあまり困らないハズ。

遭遇した表現を一部紹介

greener pastures

(より魅力的な場所、環境)

Jing と Kanna は同じ職に就いて報酬を折半しているが、Kanna がより良い労働環境に移れば、現在の仕事を1人で行うことができ給料を折半しなくてもすむ、と Jing が考えた場面。

「より緑の牧草地」が直訳だが、比喩で「より魅力的な環境」という意味で使う。

be in one’s element

(本来いるべき場所にいて、本領を発揮して)

Jiang に仕事で連れ出された Jing が慣れない状況に驚いていたが、Jiang は馴染んでいる様子だと思った場面。

ここの “element” は「得意分野」というようニュアンス。

hold the fort

(留守を守る)

Jing と Sakura が買い出しに出ている間、Kanna と Emi が留守番することになった場面。

直訳は「砦を守る」で、そのままの意味でも使えるが、比喩として「留守を守る」という意味にもなる。

pigs can fly

(そんなバカな)

社長 Jiang から貰い物を受け取ったと Kanna が発言し、Jing が驚いた場面。

もちろん豚は飛ぶことができないので、信じられない事や可能性が低い事に対して皮肉で言う。

全体的な感想 (若干のネタバレあり)

中盤は面白いが前半と終盤はイライラ

演出とボイスは素晴らしい

本作は物語の本筋良し、ビジュアル良し、BGM 良し、雰囲気良し、音声良しと、ビジュアルノベルとしてクオリティが高い。英文も難しい表現がなく読みやすかったので、オススメしたい気持ちもあるのだが、残念ながら不満点が多かったのも事実……。

まず良かったのは、日本人の Kanna と中国人の Jing が「古びた駅に 1 年間住むだけ」という地上げの仕事をそれぞれ受け、結果として一緒に住むことになったが言葉が通じずすれ違うという流れ。特に、Jing ボイスが中国語だったので、Kanna が Jing の発言内容が理解できない気持ちを、読み手である自分も感じることができたのは面白かった。Kanna の音声も彼女の内気さが十分に表れており、ボイスのおかけで物語に一層没入できたと思う。その他にも全体的にビジュアル演出や BGM が洗練されており、序盤からビジュアルノベルとしての質の高さが伺えた。

イライラする Kanna と Jing の性格、不自然な展開

良い部分が多く物語の中盤は楽しく読み進めることはできたが、物語全体の 1/3 程度 (前半と最終盤あたり) は以下の要素が強くてイライラさせられた。

  • 内気で世間知らずで短絡的な Kanna の性格
  • 来日していながら日本語を学ぶ気もなく、押しつけがましい Jing の性格
  • 不自然にも、登場するモブの殆どが性格が悪い
  • 一部展開が不自然で、ライターの都合で物語が進んでいる感が強い

例えば、物語の前半 (9章ぐらいまで) は日本人の Kanna と中国人の Jing のすれ違いが描かれているが、彼女らの性格の悪いところが出ており友好関係を築こうとしなかったのは単純に読んでいて面白くなかった。また、友好的な行動をしようとする場面もあるのだが、不自然にも何かしら不都合な展開が毎回起こり仲は進展しない。この辺りで、物語の前半では Kanna と Jing をすれ違いにさせたままにしたいとうライターの都合が透けて見え、かなり不快であった。

言葉が通じないのですれ違いが起こること自体は自然だと思うし、何かしら不幸な展開が起こることも別に気にはならないのだが、上記のようにライターが不幸な展開を作るべく登場人物の行動や思考・言動を歪めているように感じられる場面が複数あったのは残念。

物語の本筋は良いのだが斬新な展開があるわけでもないので、イライラ要素を我慢してまでのプレイをオススメするほどではないかな、というのが最終的な私の評価。Steam のレビューを見ると評価が高いので、あまり上記要素を気にする人は少ないのかもしれないが……。

個人的にオススメのノベル・アドベンチャーはこちら「英語ノベルゲームリスト」。